栄養学部教員コラム vol.49
2012.04.26 管理栄養学科 佐藤 容子
妊娠中の喫煙は、能動喫煙、受動喫煙にかかわらず、胎児に様々な悪影響を及ぼすことが知られています。喫煙は、胎児奇形、新生児低体重、早産などを引き起こす可能性があるほか、神経系にも重篤な障害をもたらすことが知られており、例えばattention-deficit disorder、hyperactivity、learning disabilitiesなどの認知・高次脳機能障害や、新生児突然死症候群(SIDS)などとの関連が示唆されています。しかし、喫煙による脳機能障害発生のメカニズムについては、今なお不明な点が多く、その解明が強く求められています。
私たちの研究室では、これまでに神経活動の光学的イメージング法を用いて、中枢神経系の機能発生・機能構築過程の解析を行ってきました。その過程で、胎生期における中枢神経系の機能発生に重要な役割を果たすと考えられる広範囲伝播脱分極波(depolarization wave)を発見しました(図)。この脱分極波は、前脳から脊髄まで、中枢神経系の非常に広範囲にわたって伝播する興奮波で、発生のある一時期に限局して発現しますが、その発現時期はシナプス回路網の形成期と重なっており、脱分極波を介する神経細胞群の秩序正しい同期的活動が、神経回路網の正常な発生に不可欠であると考えられました。これに続く伝播ネットワークの解析で、ニコチン性アセチルコリン受容体が、脱分極波の伝播に重要な役割を果たしており、ニコチンの投与によって、脱分極波が消失してしまうことが明らかとなりました。この脱分極波は、当初鶏胚で見いだされましたが、哺乳類胎仔にも発現していることが最近確認され、母体のニコチン摂取による胎児脳発達への影響という観点から、その解析が極めて重要であると考えられています。
私たちは今、脱分極波を介した神経系の発生制御機構と、それに関連したニコチン性アセチルコリン受容体の役割について解析を行い、喫煙が及ぼす胎生期の神経系発生への影響について、新たなメカニズムを解明することを目指しています。
図:鶏胚全脳―脊髄標本における脱分極波の伝播パターン |
佐藤 容子(健康栄養学科)