栄養学部教員コラム vol.63
2013.05.16 管理栄養学科 菅 洋子
太古のヒトは必須な栄養素を得るため、植物や動物を偶然性のなかで収穫・捕獲して食べていたといいます。その中で穀物という保存性の良い植物や捕獲しやすい動物が季節的周期性をもって出現することを知り、文明の勃興に至ったのでした。中でも火の利用は天然物の咀嚼や消化・吸収を良くし、栄養や安全性を損なう成分の作用を弱め、加熱はさらにヒトが嗜好性を形づくる契機になったことでしょう。
このような技能の蓄積の過程で数多くの生命が失われたに違いありません。生存と嗜好への欲求を基にした「食の自己責任」原則は今なお変わっていないと考えられます。「いただきます」という食事前の挨拶は、こうした生命をいただくことへの感謝、農作物、食品を生産してくれる人々への感謝など様々な思いをこめて行うものです。
高度に組織化された現代社会では生産・加工地と消費地とが遠く離れており、消費者が生産や加工を体験したり、技術を習得したりすることは困難になっています。しかし、地球上で60億人を越える人口を養えるのは、食糧資源からの生産物が加工・貯蔵の技術により安定な状態に持ち込んでいるからです。食品の量の確保は人類の生存を保障する最も基本の要件であります。
他方、食品には色々な素顔があります。“食と健康アカデミー”は、身近な食材の安全性、嗜好性、高品質、健康への寄与等について考え、食品の加工技術を前向きにとらえ、多面的に議論することを目的とした市民公開講座です。“酢” “砂糖” “卵” “トマト” “イモ”等、身近な食品を2テーマずつ取り上げ、昨年から計4回、KGU関内メディアセンターにて開催しています。食品加工に携わる企業の方や研究者、大学教員と消費者でもある市民、学生が「食」を通じて交流できる場として、講習会、交流会を開催しています。是非みなさんもご参加ください。
菅 洋子(健康栄養学科)