栄養学部教員コラム vol.118
2017.07.17 管理栄養学科 山岸 博之
ここ数年、「アクティブラーニング」という言葉に少し敏感だ。これを実現するためには学習者のモチベーションが最も重要だ。しかし、「やる気スイッチ」の場所は十人十色であり、なかなか難しい課題だ。
私は1年生春学期の「基礎化学実験」という科目を担当している。この科目は実験・実習の導入科目であるため、実験室でのマナーなど最大公約数的な諸ルールを身につける場でもある。同時に、充実した4年間を過ごすための工夫もしている。なかでも、「大学生」=「バイト」=「遊び放題」という妄想から現実に引き戻すために、ほぼ毎回のように小テストを繰り返している。
「中和滴定」は基礎化学実験の序盤の山場で、全15回のうち4回を占める。忌み嫌われがちな「モル」の世界であり、過去の経験から「苦手にきまっている」と洗脳されている学生は、「学習支援塾」に通って覚醒するまで苦痛が続く。「やる気スイッチ」が入り、実験や小テストに対し素直に積極的に取り組む学生は、レポートの内容も一味違う事が多い。
この授業で初めてガラス器具に触れる学生も多い。ストローに似たガラス製の体積計の目盛りに液面の高さを合わせる作業は、実験結果を左右する最重要手技で、柔らかな「人差し指」の所作が求められる。いわゆる「基本型」にはそれなりの意味があり、身につけてしまえば結局一番ラクである事も少なくない。デジタルキッズは親指を使うのが得意なようで、いくら「人差し指!」と繰り返し指導をしても使い込んだ親指に執着しがちだ。挙げ句の果てには「親指でもできる!」と妙なアピールも聞こえてくるが、すかさず「人差し指!」と反撃する。「親指」派の多くは失敗を繰り返し、「世の中簡単な事ばかりではない」と少しだけ自覚するのか、まるでパンデミックのように「人差し指」派が急増し、「親指」派はほぼ撲滅される。
先日、中学1年生の姪から、春休みに日帰りのプチ「卒業旅行」に出かけたと猛烈にアピールされた。「もの」を購入して消費するのではなく、「こと」を経験するための消費が増えてきた日本の縮図だろう。しかし、さすがに「卒業研究」は大学生限定の「こと」だ。「アクティブラーニング」度でいえば、前述の基礎化学実験とは雲泥の差だ。私のラボの卒研生は、課題解決のためにチームで考え、悩み、苦しむ。春、夏の長期の休みもほとんど返上で連日実験に明け暮れ、モヤモヤした時間を過ごす。個人的には、卒研の課題解決もさることながら、このモヤモヤを経験するために卒研があると理解している。こうした経験のない第三者には「ブラック!」と映るかも知れない。確かに近視眼的な価値観では一連の「モヤモヤ」は評価し難く、昨今の大学生には敬遠されがちだ。世知辛い時代をとても残念に思うが、それでも昨年度は写真の10名がブラックを乗り越え笑顔で卒業していった。
大船ルミネで開催される「2017 うまいもん大学」 http://www.lumine.ne.jp/luminewing/topics/topics_details.php?article_no=3428の本学ブースの主担当を、私のラボで引き受けることになった。今年は3名の卒研生が在籍するが、実験だけでなく国試もあるので3年生6名に企画を楽しんでもらうことにした。3年生は臨地実習や企画の準備やらで、この夏休みは今までのようには遊べないだろう。バイトもできないかもしれない。でも、この6名はラボ見学の際に、「時給の発生しないバイト」と、写真の卒研生から愉快な説明を受けてなお「どうやら楽しそうだ」と配属を希望した強者達だ。卒研とも一味違うこの企画を、精一杯楽しんでもらいたい。門外漢の私は、ワクワクしながら連絡役に徹している。
オープンキャンパスのゼミ展示コーナーでは、途中経過を一部披露させていただく予定だ。是非足を運んでいただきたい。
「ゼミ旅行@2016」
山岸 博之(管理栄養学科)