栄養学部教員コラム vol.175
2022.07.12 管理栄養学科 田中 弥生
看取りは、死期を迎える患者のそばにいて世話をする、看病、介護するそのものを表す言葉です。
日本は、病院での死亡率が80%と高く、人生最期の看取りは病院で行われることが最も多い状況です。さらに60%以上の国民も最期まで自宅での療養は困難だと考えています。しかしながら、近年、ターミナルケアや緩和ケアにおいて、医療機関や介護機関と患者本人と話し合いを持つことによる自宅での療養が少しずつ増えてきました。病院では看護や介護だけではなく入浴や食事も提供されていますが、在宅では全ての看護や介護を家族が中心に行うこととなります。特に食事は、家族が朝昼夕食を調理し、自分で食べられない患者に対しては食べさせたりもします。また家族は食べる量によって回復の兆候を確認したりします。そして多くの家族は食事によって元気になってほしいと心から願っています。
しかし、一生懸命に料理を作って食べさせても、咀嚼・嚥下障害がある患者はむせ込みも強く、食べることが楽しみどころか辛いものになってしまうことも多々あります。
そのようなことから、最近では医療機関、福祉施設や栄養ケア・ステーションの管理栄養士が自宅に訪問し患者に寄り添った最期の食事提案を行うことが増えてきました。
食事提案をした例を挙げると、ウイスキーが大好きな看取りのがん患者には、水割りの音を聞かせながらウイスキーゼリーを口に含ませ、それがきっかけで食事が食べられるようになり延命に繋げることが出来たこと、また柿が大好きだった96歳の低栄養の女性の看取り時には、少し脂肪を入れた柿のコンポートが美味しいと全量食べて、その後他の食事も食べられるようになった方などもおります。このように在宅での看取りに携わる管理栄養士は、患者とその家族の思いに寄り添いながら食支援することが大切なサポートの一つになっています。
先日、「人生最後の命の食事(仮)」の料理集を作る目的で、看取りの経験がある管理栄養士達が当大学に集まりその料理の撮影を調理実習室で行いました。一つ一つの料理に思いを込めながら素早く調理を行っていました。今まで管理栄養士達が経験した食支援が深く刻まれた料理集になることと思います。
人生最後の時、あなたは何が食べたいですか?
私はのど越しのよいさっぱりとしたお寿司をお願いしたいと今は思っています。