教員紹介

栄養学部教員コラム vol.212

2025.09.29 管理栄養学科 田﨑 達明

手洗いとスキンケアのススメ −手指・皮膚の常在細菌−

 手を洗うことは食品汚染防止ための重要な衛生管理として位置付けられており、洗浄消毒剤に関する多くの報告があります。それらは手指の実質的な微生物数の測定が難しいため、間接的に求めたグローブジュース法、スクラブ法、ラビン法によって推定されています。
 それらは洗浄液中の脱落菌数を測定している知見であり、米国CDCガイドラインの根拠となっています。しかし、手指常在細菌と一過性細菌(通過菌)との区別はなく、また手洗い後の手指の残存菌の付着による汚染の視点からは必ずしも捉えられていません。そこで、調理現場における手指の洗浄方法を考える上から、接触伝播のリスクとなる洗浄後の手指の付着している常在菌と通過菌の菌数を調べるため、表1のとおり簡易な実験を行ったのでお伝えします。

 

 
 結果として、アルコール消毒のみの殺菌では、図1のとおり、一般細菌及びブドウ球菌(表皮種)のいずれも洗浄後は減少傾向にありましたが、細菌の大幅な減少は認められませんでした。石鹸による洗浄を行った手指については、図2のとおり一般細菌及びブドウ球菌(表皮種)のいずれも洗浄後の菌数は増えました。
 なお、洗浄前の一部の被験者の手指から大腸菌群及び黄色ブドウ球菌を検出しましたが、洗浄後の検査からはいずれも検出されませんでした。
 表皮ブドウ球菌などは表層や深層部の皮膚に定着しており、作り出した脂肪酸やグリセリンは肌を弱酸性に保ち抗菌ペプチドを作り出すことで、皮膚のバリア機能を担っています。
 表皮ブドウ球菌は、角質層にも存在していることから、洗浄後に細菌が増大した理由手洗いによって皮膚常在細菌を測定したものと考えられました。

 

 

 

 

 表2に示したとおり、皮膚の常在細菌叢には表皮ブドウ球菌やアクネ桿菌などがありヒトの皮膚表面や毛穴に存在しています。一方、ビブリオ属の細菌や大腸菌などの腸内細菌科菌群は、皮膚に定着せず、付着したとしても通常は一過性であり、洗浄することで簡単に落とすことができます。
 一方、頻繁すぎる手洗いによって皮膚菌叢のバランスを壊し、手荒れを経て黄色ブドウ球菌が増殖するなどのリスクを負う可能性はあります。米国CDCのガイドラインにおいて医療従事者の手洗いの重要性と同時にスキンケアについてローション等の使用が勧められています。栄養士などの調理に携わるみなさんにおいては医療系従事者の手洗い頻度と比較しても、同等以上に手洗いの頻度は高く、スキントラブルを予防するためのスキンケアが必要だと考えます。

 

まとめ

⑴ 手洗い後に残存する細菌は、表皮ブドウ球菌などの皮膚における常在菌である。
⑵ 一般細菌数の検査のみで手洗いの洗浄効果判定には注意を要する。
⑶ スキントラブル予防のために手指洗浄と共にスキンケアが大切である。

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