栄養学部教員コラム vol.73
2014.01.30 管理栄養学科 佐藤 容子
2012年暮れ、ノーベル賞科学者Rita Levi-Montalciniの訃報が報じられました。享年103歳。日本の新聞でも取り上げられ、御記憶の方もおられるかと思います。彼女は、神経成長因子nerve growth factor (NGF)の発見で、1986年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。私は大学院生の頃に彼女の論文を通しで読むという課題を与えられ、その時に彼女の伝記にふれて、若い頃のエピソードに深い感銘を受けました。彼女はユダヤ人であったために、第二時世界大戦中に研究の場を奪われ、自宅の部屋に孵卵器と顕微鏡一台を持ち込んで、鶏胚の神経発生に関する研究を続けたのだそうです。食糧難の折、鶏胚を取り出した後の卵はオムレツにして食べたとか。そのようにして行った研究の成果が、アメリカにいた著名な神経科学者Viktor Hamburgerの目にとまり、戦後彼に招かれてアメリカで行った研究が、ノーベル賞に値する大発見に結びついていったのです。
2013年にNeuron誌に掲載された「Rita Levi-Montalcini: In Memoriam」(Neuron 77, 385-387, 2013)には、彼女の生涯にわたる科学への情熱、そして数多くの社会貢献がつづられています。この記事には、2007年に(98歳の時!)、Levi-Montalciniが背筋をピンと伸ばした姿で顕微鏡に向き合い、若い同僚達と実験に取り組んでいる写真が載っていました(図)。共著論文は、2012年(亡くなる年)になっても発表され続けています。100歳を超えてなお研究に情熱を注いだLevi-Montalcini。その情熱に、改めて深い感銘を受けました。
研究室のメンバーとともに鶏胚を実体顕微鏡で調べるLevi-Montalcini。 2007年10月撮影。Neuron 77, 385-387, 2013のFigure 3より転載。 |
佐藤 容子(健康栄養学科)